今回は、始めてCRO/CDMO産業から中国企業を取り上げて研究します。
前回の記事では、「どのようなCROが中国にあるのか知りたい」ということで、中国全体のCROについて記事にしました。
そのなかで世界規模で考えてもウーシーの存在は大きく、今後切っても切り離せない存在ということで、今回掘り下げてみることにしました。
ウーシー ・アップテック(無錫薬明康徳新薬開発)
正式名称は無錫薬明康徳新薬開発有限公司です。
中国では、 薬明康徳 と呼ばれているのですが、ウーシー( 無錫 )と一文字も入っていないんですね。笑
本社概要
本社 | 中国江蘇省無錫市 |
従業員数 | 27,000名強 |
設立年月日 | 2000年 |
資本金 | 不明 |
オフィス | 上海、米国、ドイツ、イスラエル等9地域に30施設 |
日本オフィス | なし |
上場先 | 上海証券会社(証券コード:603259)、香港証券会社(証券コード:2359) |
2020年総収益 | 165.4億人民元 |
2020年非控除純利益 | 23.85億人民元 |
2020年純利益率 | 18.06% |
ウェブサイト | http://www.wuxiapptec.com.cn |
事業内容
- CRO事業 ー 67.9% 112.31億人民元
- 中国国内での非臨床試験業務:85.46億人民元
- アメリカ国内での非臨床試験業務:15.17億人民元
- 臨床研究やその他CRO業務:11.69億人民元
- CDMO事業 ー 31.9% 52.82億人民元
- その他 ー 0.2% 2,210万人民元
合計:165.4億人民元
- 中国外からの収益;123.9億人民元 中国内からの収益:41.23億人民元
売上の傾向として、中国国内での非臨床試験業務の割合が最も高く、全収益の50%程度です。
また、圧倒的に中国国外からの収益が多く、全体の75%程度を占めています。
この背景を推察すると、中国市場への進出を目論む外資系製薬会社からの受託数や予算が多いことが一因に挙げられそうです。
CDMO事業:合全藥業(WuXi STA)にて受託
- 低分子化合物R&D及び製造
- 細胞治療及び遺伝子治療
- 創薬R&D及び医療機器試験
- 合全藥業 ウェブサイト:https://www.stapharma.com/en/
CRO事業:康德弘翼(WuXi Clinical)、ウーシー内のRSDやLSDにて受託
- 中国国内での非臨床試験業務:85.46億人民元
- アメリカ国内での非臨床試験業務:15.17億人民元
- 臨床研究やその他CRO業務:11.69億人民元
ウーシーのCRO事業の大きな特徴は、非臨床試験受託の割合が90%弱ということでしょう。
CRO業務受託部門 | 臨床試験/非臨床試験 |
---|---|
Laboratory Testing Division (LTD) | 非臨床試験 |
Research Service Division (RSD) | 非臨床試験 |
康德弘翼(WuXi Clinical) | 臨床試験(治験含む) |
以下の項目にて、1つずつ企業の概要について述べていきます。
Laboratory Testing Division (LTD)
LTDだけでも2800+名の研究員が世界中にいます。
包括的なIND対応のテストプラットフォームの提供を行っている部門となります。
- 生物分析
- 薬物代謝・薬物動態(DMPK)
- 安全性評価性
- 吸収・分布・代謝・排泄(ADME)
- 薬理学
- 科学
- 製造及び管理(CMC)
Research Service Division (RSD)
- ウェブサイト:https://wuxi-rsd.com/
RSDだけでも7000+名の研究員が世界中にいます。
ウーシー・アップテックリサーチサービスプラットフォームの提供を行っている部門となります。
- HitS ー DNA コード化ライブラリ https://hits.wuxiapptec.com/
- DELプラットフォーム
- ELISAキット
- 生物学構造に基づく創薬
- FTE科学サービス
- 生物学 : バリデーションされた検出アッセイの提供サービス
- in vitroでのアッセイ(HTS、SARスクリーニングサポート、化合物の選択及び初期安全性プロファイル、および癌細胞パネルプロファイリング)
- in vivoでの心血管系、中枢神経系、呼吸代謝および感染症の疾患モデル
- 腫瘍学および免疫学
- 化学分析
- 学術
- Chem-on-Demand:WuXi AppTecが提供する新しいサービスであり、合成化学、化合物設計、およびプロジェクト管理を、新しい生物学のターゲットに取り組んでいる学術研究者に提供。
- 科学的専門知識の調査
2017年に買収したHD Biosciences(HDB)の機能に加えて、生物学、化学、構造生物学、生物物理学、ADME / PKを網羅しています。
最後に、残り10%のCRO(臨床試験)受託の企業「 康德弘翼(WuXi Clinical) 」について紹介します。
康德弘翼(WuXi Clinical)
- 康德弘翼 ウェブサイト:https://www.wuxiclinical.com/?lang=en
臨床研究や臨床試験においても、オンコロジー、内分泌学、CNS /神経学を始めとして沢山の試験を引き受けています。
最近は、婦人科や小児科領域でユニークな経験を積んでいるようです。
サービス内容は以下の通り(フルパッケージ若しくはFSP契約)
- Early Phase(第1相臨床試験)
- 第2相ー第3相臨床開発 500名以上のスタッフが中国や米国にて勤務中
- データマネジメント・生物統計 在籍の40%が海外のプロジェクト従事、35%はオンコロジーのプロジェクトに従事。
- メディカルアフェアーズ
- 薬事申請
- 品質保証
臨床試験(治験)の規模としては、WuXiはまだまだ小さいことがわかります。
WuXiの100%子会社:藥明津石(臨床研究SMO事業)にて受託
- 正式名称:上海药明津石医药科技有限公司
- 150+都市,1000+施設に3700+名のCRCが在籍(中国国内21事務所あり。上海,北京,长沙,沈阳,西安,济南,天津,杭州,广州,武汉,成都,南京,长春,郑州,合肥,哈尔滨,福州,南昌,石家庄,无锡,重庆)
など
- 藥明津石 ホームページ:https://smo.wuxiapptec.com/index.html
参考:ウーシーとJuno Bioの中国合弁会社「薬明巨諾(HK;2126)」
ウーシー・アップテックは、2016年4月米国バイオ医薬品企業Juno Bioと合弁会社上海薬明巨諾生物科技有限公司(JW Therapeutics)を設立し、共同で中国のトップレベルの細胞療法会社を作り上げています。
ここでは、難治B細胞リンパ腫の標的となるCD19に対するCAR-T療法に取り組んでおり、JWCAR029はNDA承認待ちの状況となっています。
パイプライン:https://www.jwtherapeutics.com/en/r-d-and-manufacturing/pipeline/
2021年2月には、 薬明巨諾とサーモフィッシャー(Thermo Fisher Scientific)がCAR-T療法技術における中国でのパートナーシップを締結しています。これにより、サーモフィッシャーのGibco CTS Dynabeads CD3/CD28へ非独占的にアクセス可能となりました。
日本企業とのパートナー
ナミキ商事株式会社
サプライヤ-として契約している模様
詳細はこちら:https://www.namiki-s.co.jp/supply/common.php?id=wuxiapptec
株価チャート
上海証券会社:603259
香港証券会社:2359
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、ウーシーアップテックについて紹介しました。
CRO企業として大きな存在感を示していますが、殆どが非臨床試験であります。
ここで存在感を見出している理由は、いくつかあると推測されます。
- 中国で幅を利かせている外資CROが臨床前試験より臨床試験に特化しているため、ポジショニングを行いやすい。
- 中国内資CROの方が外資CROや製薬会社と比べて人件費が安く、非臨床試験のうちから受託しやすい。
- 細胞治療及び遺伝子治療(特に中国市場におけるCAR-T関連)の研究に強いプラットフォームを所持している。
など、といったところでしょうか。
日頃仕事を行っているなかで、中国ではCAR-Tが大流行している印象がありましたが、ウーシー・アップテックも先頭集団の渦中にいることがわかりました。
今後も、新しい動きがあればまた注目していきます。
ご拝読ありがとうございました!